「これ以上ないと思えるほど削ぎ落とされたシンプルな線が作る、清涼感ある素晴らしい決めゴマ。今年躍進に期待したいマンガ家です。」
「たむらしげるの絵本であり、映像化もされた「ア・ピース・オブ・ファンタスマゴリア」を想起させる、とある惑星での出来事を綴った短編集。ちょっぴり不思議でときどき悲しくもなるけれど、それでも心がほっこりとして来て、これからもゆっくりと進んでいこうという気持ちにさせられる。その惑星の極点にある町は、穴の中にあって日が当たらず、歩く人たちはそのままの姿で氷付けになっている。そこで凍りついた女性に恋をした主人公の男性を描いたエピソードでは、永遠を揺さぶる意味を問われる。まもなく惑星から遠く離れていってしまうという月に、かつて調査で赴いたことがあるという老人が、カフェのウエイトレスに語ったその月での不思議なできごとを描く「衛星の夜」は、驚きの出会いがあって、交わされる心情があって、そして離別があって漂いだした哀しみに涙が滲む。突拍子もなくって唐突なところもあって、それでいて読んでいて面白く説得されるようなところもある漫画たち。けれども、基本はゆるゆるとしてふわふわとした感じに浸り、気がつくとその惑星に暮らしたくなっている。」