「進むも退くも地獄の瀬戸際で助六が切った啖呵。素晴らしい飛躍、納得の着地。お見事でした。」
「どんどん盛り上がる人間関係!幸せなことと哀しいことを繰り返しながら、人々が敗戦後の日本で生きてゆく様子が、落語を通して描かれている面も魅力的。マンガを通して、過去(伝統)と現在(変革)が混ざり合って、新しい未来が作られようとする過渡期に立ち会えている。独特の艶のある線で描かれる世界と和装にのめりこんでしまう。」
「落語は独りで正座したまま複数の登場人物を演じ分ける。姿勢を変え、顔付を、声色を、仕草を変え、全く違う人格を演出する。画と台詞で無限の表現ができるマンガという様式は、場面によってキャラクターの顔や体型をいくらでもいじることができるため、落語をネタにするうえではある意味ズルい部分もあるかもしれない。が、この作品はそういったマンガの持つ表現の幅の広さをフルに使って、落語の魅力や凄みをたっぷりと伝えている。この作品の真骨頂はやはり落語根多のシーン。見開きにあるコマというコマは、根多を披露しているキャラのアップで埋め尽くされる。しかしそれは単調なものではなく、キャラの表情の変化はもちろん、画の描線やフキダシの形、コマの大小で落語の緩急が表現されており、キャラの息遣いや高座の匂いまでもが感じられるような、エキサイティングな画面になっている。そういった表現の手腕ももちろんのこと、主人公の師匠「八代目 有楽亭八雲」の恐ろしいほどの存在感も、大きな魅力。危うげな初老の男性ながら、漂う色気、高座に立つと豹変する名人っぷり。既刊6巻のうち、現状で半分以上の尺を八雲師匠の過去編で占めているため、もはや正主人公を食う勢い。彼が落語を続ける理由、ただのチンピラでしかなかった主人公「与太郎」を弟子に取ったわけ、そして本作のタイトル「落語心中」の意味、その辺が過去編に濃縮されている。余談だが、私のごとき落語素人からすると、登場人物たちの使う江戸ことばが堪らなくカッコイイものらしく、知らず知らずのうちにしゃべり方が感染ってしまっていたようで、上司に喋り方を注意されることがこのマンガを読んで以降、増加する傾向にある。用法、用量を守って読み込むのが良いであろう。」