選考員コメント・1次選考
「毎巻読み終えてジワジワきます。」
「東村先生の自伝。語り口調がとても染みます。
大バカな自分、ふがいない自分、それでも今こうして生きてる自分。
わかるなぁ・・・。」
「身勝手でぐうたら、勘違いしていて傲慢で、でも必死。そんな主人公の若さとバカさと、「先生」の破天荒ぶりにゲラゲラ笑い、笑っているうちに泣かされる。急転直下の展開は苦しくてたまらないし、続きを読みたいけど結末は想像すると切なくて本を閉じたくなる。熱くて苦くて甘い、キリキリする思いが勝手に蘇ってくる青春の書です。」
「何でも思い通りになる、後回しにしたことも何とかフォローできる、取り返しのつかないことなんてないと思っていた思春期の愚かさ、傲慢さが染みる。
厳しい言葉の裏にある強がりや、優しさやさびしさを見抜けるようになった頃には、もう全てが終わっていることもある。
「先生」に語りかけることで増幅されるどうしようもない後悔と謝罪と、自分の夢を叶えていくまでの面白おかしい紆余曲折のバランスがいい。つらいけれど読んでしまう。」
「数年前から話題になっていたのに、何で今まで読まなかったんだろう!と後悔。号泣した4巻の続きを読むのがつらいけど、日高先生の美しい生き様を見届けたい。」
「東村アキコ二冊目でごめんなさい(笑)
ご存知、東村アキコの自伝本。
話がどんどん悲しい方に向かってます。
そんな伏線がバシバシ張り巡らされていて
胸が締め付けられるような4巻でした。
どう、終止符をつけていくのか。
切ねえです。」
選考員コメント・2次選考
「 イラストとかマンがとかをマネして描けば、それなりな形になって雰囲気も出ていて、絵なんて簡単簡単と思ってい頃があったし、今だってスケッチブックを買ってきて、鉛筆でも走らせれば、風景だってサラサラと描けてしまうんじゃないかと思わないこともない。でも、そんな浮かれた気分を東村アキコの『かくかくしかじか』というマンガが木っ端微塵に吹き飛ばしてくれた。
マンガ大賞の候補に違う作品で何度も候補になって来た人気マンガ家で、そのうちの1作『海月姫』はアニメになって映画にもなった。そんな東村アキコが高校生のころに通っていて、美大を出てからもしばらく講師をしていたらしい絵画教室で、とてつもなく厳しい先生から、どれだけの厳しい指導を受け、どれだけの苦行難行を重ねて美大に受かるくらいの技術を身につけたかが『かくかくしかじか』にはつづられている。
その先生の指導はもうとてつもないスパルタぶり。そばで竹刀を振り回され先端でつつかれ、自信満々に描いたデッサンを面前でダメ出しされ、そして1日に何時間も10何時間もデッサンを続けされられる。そうやって描けるようになっても、世界のみんなを、というより自分自身を納得させるものを描くまでには至らないという、絵描きの人たちの厳しい現実を見せつけられて、安易に絵なんて目指すべきじゃないと思わされるかというと、それは違う。
逆に、この教室に通って指導を受けながら、描くことの楽しさを感じてみたいとさえ思えてくる。ただ巧くなりたいという目的のためだけなら、こんなに厳しい教室に行く必要はないし、それが良い思い出になることもない。東村アキコが今になってマンガに描くこともなかっただろう。けれども描いた。振り返って辛かった気分や、憎かった思いも消さずにペンに乗せて描いていった。
その絵画教室には、ただ技術を厳しく仕込むだけに止まらない、何かがあったのだろう。だから通り過ぎたまま、振り返らずに終えることが出来なかったのだろう。どうやって描くのか。どうしたら描けるのか。そうした指導ももちろん有り難い。それに加えて、何のために描くのか。誰のために描くのか。そんなことを後になってしっかりと、思い出させてくれるだけの指導を、その絵画教室の先生がしてくれたからこそ、今にこうやって振り返り、良い思い出としてマンガにつづっていけるのだ。
それはとても羨ましいこと。それはとても素晴らしいこと。だったら今、同じような思いを味わいに、その海のそばにあって、木々に囲まれた絵画教室に通いたくても、それは出来ない。先生ももういない。だから。
マンガとしての『かくかくしかじか』を読んで、そこに描かれた東村アキコさんの体験を通して、その熱くて激しい指導を受けよう。そこに浮かべられる東村アキコさんが抱いた感情をたどって、絵を描くことに限らず、マンガ家を目指すことに止まらず、自分が何をしたいのかということ、何ができるのかということ、そして何かを成し遂げるまで頑張り続けるということの大切さを、自問して自答してみよう。
そうすることで、海のそば、木々に囲まれた絵画教室は蘇る。
指導を受けた人たちの中に思い出として生きていたものが、東村アキコのマンガによって新しい命を吹き込まれ、マンガとして読みつがれることによって、今もそこにあるかのように輝いて大勢を導く。個人にとっては思い出の振り返りだったかもしれない『かくかくしかじか』だけれど、大勢いにとってそれは熱い指導の再臨なのだ。受け止めて僕たちは、何をしようか。
とりあえず鉛筆を取って、スケッチブックに向かってみようか。」
「話が始まった頃は、いつもの東村さん作品のようにギャグなオチがついて先生は今でも生きているという終わりだと思ってました。
モノローグが切ないです」
「東村さんの実体験をタイムマシンで一緒に戻って、見ているような感覚になりながら読み続けます。」
「人と人のつながりの大切さ、もろさが描かれていて、「人とは何か」を意識してしまう。読後にいろいろ考えさせられる希有な作品で、恩師のことを思い出す人もいるのでは。」
「正直!
人に見せるものをつくろうとすると、
「お金が儲かったらうれしい」とか
「前向きな努力をしていたからいい結果につながった」みたいな、
理解しやすくて、でも意外性のないものごとのつながりを積み重ねて、
ものを作ってしまいがちです。
あったこと、感じたことを、先入観とはまったく関係ない感想を、
実際の事態に遭遇した人間は抱くもの。
それが、生々しくみられるのが、実話をマンガで描く価値でしょう。
どんな気持ちを抱えて美大受験生は絵を書き続けているのか。
すごく好きなタイプの男性と出会っでしまったときに、
女性マンガ家さんはどうリアクションするのか。
マンガがヒットしたときに、ATMの前でどんな気持ちを抱くのか。
そして、厳しくもどこかとぼけている先生との生活から、なにを思うのか。
この生々しい気持ちが織りなすものが、
笑いと、芯をくらった暖かさだなんて。
一生懸命やるって、いいですよね。」
「自分の若い恥ずかしい頃と重ね合わせてジタバタしたり。もちろん、そればかりではなくハッとさせられたり爆笑したり。
確実に悲しい方向に向かっているのが切ない。
東村アキコは描くことによって昇華できたのかな。」
「現在から、20数年前の高校生~デビュー後当時を恩師との関係を縦軸として振り返るという構成で、1話目から既に死別を匂わせており、ギャグタッチの漫画にシリアスで暗めのモノローグを重ね、あざといくらいに切なさを際立たせているが、不思議と嫌味はない。
極私的な自分の過去をバカ話風にして描いているだけなのに、誰もが若い頃に体験する全能感や無能感、自分の欲望に忠実な刹那的な生活など普遍性もあり、漫画を読みながら、ふと自分の若い頃の事も思い出す瞬間がある。それは多分に作者と私がほぼ同年代という部分も大きいとは思うが、それだけではないとも思う。
中学生ぐらいが読んだらまた違う感想を持つのかもしれないけれど。
30歳以上くらいの方には、文句なしにお薦めです。」
「若さ故の甘酸っぱさと今の作者目線の突っ込みとの加減が絶妙。笑えて泣ける、このジャンルの金字塔になると思う。」
「作者の個人的な思い出が、なぜか懐かしく、共感できる。」
「泣いて笑える
東村先生の赤裸々で直球な自伝です。
受験の苦労や絵を描く事への葛藤の日々と恩師日高先生との
出会い。ひとつひとつのエピソードは面白くて泣ける話ばかりです。
素朴でぶっきらぼうで全力で応援してくれる日高先生。
大切な恩師に感謝しながらも時には正面から
向き合えなかった若い頃の東村先生。
不器用なふたりの強くて温かい絆に涙が出ました。
大切な人や事から目を背けてしまった苦い思いや
その時はわからなかったけど今ならわかる事など
誰もが経験する様な心情が飾らずに描かれています。
また読み返したい、人にも薦めたい作品です。」
「それにしても、東村さんは、いつも傑作が同時進行しすぎる。たぶん過去にも、ばらけた票を足したら一番、という年度もあったかもしれないです。タラとレバーの擬人化とか、相変わらずフード作家の面目躍如。東京でオリンピック開催のニュースに、すわっと脊髄反射してこの作品が描けるってすごい。100m走しながら碁を打ってる感覚か? 「東京タラレバ娘」や「メロポンだし!」と今年も票が割れそうな悪寒が的中。どうか、票をまとめて足してください!的な懇願。?してみた甲斐あり、とりあえず二次では「かくかくしかじか」に一本化されたのが念願。(ちょっと韻を踏みました) 作家とは、ってだけじゃなく、どんな仕事をしているひとであろうと共感できる普遍性がある。」
「傑作誕生。雑誌掲載分で最終回を読んでしまい、本来はそこに関しては選考対象外だと思いますが、これはもう推さずにはおれない!「描いて」生きていくとはどういうことか、人生をかけて何かをするとはどういうことなのかが真摯につづられていて、胸をうたれる。エッセイという個人的な話のはずが、ものすごく普遍性のあるものになっている。全働く人、必読。」
「東村アキコ先生のまんが道。 日高先生と言う東村先生に多大な影響を与えた恩師 と、主人公 林明子のやりとりの中で 林明子が思っている心の中が、若き日の自分と重なり、 あそこまでの偉大な恩師はいないものの、こういう青々しさあったなと、自分を重ねながら読んでしまう。
あと、現在の東村先生の「振り返り」に心抉られます。
NHKの朝ドラみてるみたい。」
「エモい。新境地。」
「とても心に沁みました。若い頃の後悔は、ひりひりするような痛さ。どれだけ悔やんでも、もうやり直せない、戻れない。一生懸命で、ぐだぐだで、自堕落で、愚かだった、むしょうに懐かしいあの頃。笑えて切ない自伝です。」
「切ない感じがいいですね。」
「とにかくおもしろいけど、その後ろにずっと切なさが漂っていて、泣く。人生ってこういうことだよなあ。って思ったけど、こんな人生そうそう無い。無いよ!」
「いつまででも読んでいられる作品。」
「この作品をひとことで説明するのであれば、東村さんの自伝マンガってことになるんだろうけれど、単なる自伝マンガにあらず。マンガにここまで自分をさらけ出した東村さんを先ず尊敬。だからといってそれが嫌みにならず、重すぎず、絶妙なさじ加減でストーリーがすすむ。なんだかすごく自然体な「人生の教科書」っていうのが、ぼくの感想です。」
「当時軽くて今重いのが思い出!
形は違えど、誰にでも振り返って悶絶する過去があるとしたら、こういうことだったりするのかな・・・と思わせてくれます。
作者の東村先生は自分と同年代、よりか少し年上な方だと思います。
個人的に向かった学校のジャンルや将来行きたい方向性などリンクする体験が多すぎたため参考になるかどうか分かりませんが(笑)」
「バカだった自分への容赦ないツッコミと、先生への哀しい呼びかけが響き合って胸を打つ。」
「 もはやこの賞の常連候補とも言える東村さんですが、今回の作品が一番いいと思いました。最大の武器である「笑い」を封印しても、これだけのものが描けるとは、作者の奥行きの深さに感嘆します。過去と現在を行き来する語り口も、一見ゆるっとしているけれど、この作品にはこれしかないという自信が感じられる。ハイテクニックだと思います。
ひょっとして東村さんの本質は「私小説マンガ家」なのだろうか? この先の展開は、胸が痛くなりそうで、読みたいような読みたくないような......。」
「ギャグ作家でシリアスも描ける人は多い。
でもこんな繊細な抒情を描けるのか!
ってスゲー驚き。」
「ライトな自伝風エッセイコミックかと思いきや、巻が進むにつれて普遍的な青春物語であり、師弟愛の話であり、ひとりの美しい生き方をした画家の記録でもあるのだと気づかされました。」
「先生との思い出といった話が懐かしさも含めて深く伝わる作品。作者の九州で育ち、そこで出会った絵の先生。そう、少なからず、九州には、頑固で優しいこんな人たちがいる気もさせてくれます。受験・就職・そしてマンガ家へ。東村アキコの自伝的マンガ。」
「コミックエッセイということもあってか、他の東村アキコさんの作品と比べてコメディ色がだいぶ抑えられていて、とても新鮮でした。美大受験を通じて知り合った「先生」との関係を中心に展開していくのですが、マンガ家として活動を広げていく著者の、「先生」への複雑な気持ちに自然と共感してしまいます。読み応えのある作品です。」
「このマンガは作者が漫画家になるまでの自伝なのですが、自分のことを書くことを通じて、人を導く愛を注いでくれた作者の恩師宛に心を込めてとても丁寧に書いた感謝の手紙のように思えます。
全体に懐かしさや感謝、慈しみといった、作者の恩師に対する想いに満ちていて、読み進めるほどに自分にもその想いが積もってきて、感動なしには読み進められません。
今の自分はかかわってくれた人達のおかげでもあり、
その人たちへの感謝を忘れてはいけないと。そう思わせてくれるマンガです。」
「東村先生の血と肉になった先生とのエピソードの数々がこの漫画を通じて色んな人達に色んな影響を与えてゆくんだろうなぁと思います。先生に会いたいねってセリフが切ないですね。」
「東村先生、お願いだから幸せになってください!と、現在のご活躍を忘れてハラハラして読んでおります。」
「誰もが持っている"後悔"を淡々と描くマンガだと思います。でも暗くならないのは、東村先生の明るさとコメディセンスがあるから。楽しく、じっくりと、ハンカチを用意して読んでください。」
「すごく考える作品ですね。何かを目指す人に読んで欲しいなあ。」
「やっぱり、この作品が愛おしくてすきなんだなぁ。」
「自伝的青春モノ、なんだけど...。
すでに起こってしまったこと。過去に対して。
ひどく実直な態度がとられているのがショックでした。生乾きの傷っつうか。
漫画にできるぐらいだから昇華も決着もすべてついてはいるのだけれども。」
「作者の自伝的な語り口で描かれる女子版・まんが道。なんだけど、あるいは、それだけに、作者のほかの作品に特徴的なハイパーなおしゃべりや、くすくす笑いを誘う小ネタの濃度は薄め。その分、1巻で描かれる美大受験の準備(スパルタ絵画教室通い)から合格までのくだりと、その中に織り込まれるモノローグに象徴されるように、まっすぐまじめなストーリー運びが印象的だ。しんみりさせられたり、前向きに元気にさせられたり。才能あるプロフェッショナルなマンガ家の自伝的作品という興味だけでなく、美術部にも受験にもマンガにも関係がなくて、10代でもなくて、ましてや女子ですらない読み手にとっても、得るものがとても多い作品だと思う。描きたいことはきっとひとつだけなのだろう。「継続は力なり」(あ、言っちゃった)。コトバで書き出すといまさら陳腐にも思えるこの6文字が、どれだけ唯一無二の真実であることか。それを作者は伝えようとしているのだろう。それにしても、良き師と巡り合うことは人生にどれほど豊かな実りをもたらすことか、と、つくづくうらやましく思う。しかしその素晴らしさは当の教え子がその場でわかることではなくて、何年も経過してからでないとわからないのだ。せつないなあ。」
「これがあるからマンガ大賞っていいんだよなと、読み終わって思いました。薦められなかったら読みませんでした。東村さんは、すごく巧いし器用な作家さんだなと思う反面で、だからこそ、いつ読んでも読まなくてもいいかなと思ってしまうところもあって(失礼)。読んで良かったです。面白かった。ただ、完結の仕方で感想も変わる気がするので、最後まで読んでから、また考えたい気持ちもあります。が、やっぱり読まされて面白かった、という点では図抜けてました。誰かに薦めてもらうって、すごいことだなあ。」
「主人公の身勝手さや、ぐうたらぶりに呆れたり笑ったり。対する「先生」の破天荒ぶりにゲラゲラ笑い、笑っているうちに泣かされる。急転直下の展開は苦しくてたまらないし、続きを読みたいけど結末は想像すると切なくて本を閉じたくなる。熱くて苦くて甘い、キリキリする思いが勝手に蘇ってくる青春の書です。」
「先生はある意味で真剣すぎて傍から見てると笑ってしまうような感じだし、読み始めはギャグマンガかと思ってた。しかし読み進めていくに従って、これは懺悔の書なのではないかと思いつつ読んでいる。
状況は違うけど同じようなことを思うことはあって、心をえぐられつつも、もっと読みたいと思う作品。」
「こういった作品を描くにはまだ若すぎるんじゃない?と余計なお世話ながら思ってしまいましたが、きっと先生への思いがあふれて、描かずにおれなかったんだろうと強く感じさせられました。
人や物事との出会いがその時にはそれほど重要に感じられなくても、後でとても大切なことだったことに気づいたりします。作品自体も非常に面白いですが、読みながらそんなことを考えさせられる作品でした。」