「「戯言シリーズ」から分かりやすく西尾維新にどハマりした身としては、初の漫画オリジナル作品『めだかボックス』は「もしも西尾維新が【ジャンプ漫画】をやったとしたら」というパロディというかオマージュというか、古式ゆかしき所謂ジャンプ漫画のお作法をお題として作劇した、縛りのある作品として眼に映っていました。毎週必ず一ページブチ抜きか見開きがあって、とか、友情・努力・勝利で、とか、序盤は日常系だったのにいつの間にかバトルものになってる、とか、イキナリ武道会じみた大会が始まる、とか。そういう「ジャンプあるある」を物語の骨子にした、おいおい西尾維新どれだけジャンプ好きなんだよ面白いなあもうという感じの漫画でした。そんな『めだかボックス』完結(大団円。すばらしかった......)から何年かたってふたたび暁月あきら先生とタッグを組んでジャンプブランドの雑誌に帰ってきたのがこの『症年症女』なわけですが、これはある意味『めだかボックス』と真逆を行く作品だったのです。マジで自分のことしか考えていない、信用できない語り部「少年くん」が語るサスペンス。その「少年くん」から見た世界――人間の顔、固有名詞などあらゆる「個性」が塗りつぶされて見える――それ自体が視覚化された叙述トリック(誰が敵なのか、この発言は誰のものなのかが一切隠されている!)。言葉を弄し、息をするようにミスリードし、大事なところで土台からひっくり返される。という、まじりっけなしの西尾維新。『めだかボックス』で漫画のお作法に慣れてしまったから、次回作はもうちょっとマイルドになるのかなァ、なんて思っていたのですがとんでもなかった。『ジョジョ』SBRの名台詞「だがクセなんて直さなくていい もっとクセを出して走れ」じゃあありませんが、「っぽさ」全開の、小説まで含めてここ数年の作品の中でも屈指の「西尾維新らしい」作品なんじゃあないかと思っております。上でもチラっと触れましたが、主人公「少年くん」「少女ちゃん」の罹患している謎の奇病は、知覚できるさまざまな「個性」が塗りつぶされて見えるという症状。このタッグで作った漫画でしか見られないビジュアルというか世界というか、表現の巧みさでも、2016年に読んだマンガの中でも特に印象に残っています。みんなで読もう!!」