選考員コメント・1次選考
「常々「オタクとはどうあるべきか」ということを考えて生きているのですが、本作でそれの一つの回答を得た気分です。絵や小説、音楽など、極論一人でもできるものと違い映画は種々の表現活動のなかでも、どうしたってチームプレイをしなければ実現できないものです。その中でただひたすらにオタクであることしか強みのない人間はどうすればその価値を発揮できるのか?という気持ちでジーンくんの活躍を追いかけていました。結論は、どこまでもオタクであれ。自分がイカすと思ったものに殉じよ。これに尽きます。映画が好きだからこそ、それに関わる人たちに最高のパフォーマンスをさせる。こだわらなきゃ気が済まないからこそ、チーム全員を巻き込む。すべては自分がイカすと思った作品のために。このマンガのジーンくんの生きざま、オタクかくあるべし、というお手本と言っても過言ではありますまい。ラストのセリフが、シャレていつつも、とある人間関係にもスマートに決着をつけるという絶妙なオチをくれていますが、このマンガじたいのあり方とも相まってとても粋な締め方でした。」
「挫折や絶望を乗り越えて主人公が成長するという要素は全くない。既に必要な才能は持っていて、見つけてもらい、成功する話。そこが逆にリアリティがある。映画監督になりたいから映画を見て勉強をするのではなく、映画が好きで沢山映画を見るし関連書も読むから詳しくなる。頑張るオタク賛歌。読むと元気になります。」
「短いストーリーの中に濃いエンタメが凝縮されている。話のまとめ方が見事」
「2017年春、オフィスにひとり残って徹夜作業をしていた僕は、なんだかもう眠くって辛くって、気分転換にSNSでまわってきたマンガのリンクをクリックした。それがポンポさん。序盤から強いキャラクターたちに無理やり持っていかれて、そこから最後の最高に素敵なセリフまでワクワクしっぱなし!そんで読後はしっかり影響され、眠かった自分はどこへやら、朝までにしっかりいい仕事(だったと思う)を完遂できた。ありがとうポンポさん!こんなふうにSNSでシェアされてきたマンガに衝撃を受けるっていうのも新しいマンガとの出会い方だなぁと思いつつ、コミックスも出してくれてありがとう!」
「twitterでバズって話題になった、有名映画監督の孫娘、ぽんぽさんのマンガ。映画オタクのアシスタントのジーン君がぽんぽさんに見出され、映画監督デビューするところから話が動き出すわけですが、ジーン君のその才能が開花するカタルシスが読んでいて気持ちいいです。1冊完結というテンポの良さも評価したいです。」
「これは夢を見続ける者たちの物語だ。そして夢を叶える道を見せてくれる物語だ。 人間プラモという人によって、画像投稿サイトのpixivに発表された漫画『映画大好きポンポさん』が、140ページほどの分量があるにも関わらず、読み始めから読み終わりまで息をつかせず一気に読ませて楽しませた。そしてちょっぴり泣かせもした。大評判になった。至極当然の流れ。 物語はこんな感じ。「道」のディノ・デ・ラウレンティスを父親に持つラファエラ・デ・ラウレンティスみたいに、祖父が偉大な映画プロデューサーだったという孫娘の映画プロデューサーがいた。名をポンポさんといって、面白い映画を作ることに熱心で、美人俳優を使ってB級スペクタクルめいたものをいっぱい作って、それなりに当てていたりする。 祖父のような大作文芸映画が嫌いという訳ではないけれど、2時間を超えるような長い映画は苦手で、90分がベストというポリシーの持ち主。何より面白い映画が作りたいからといった姿勢から、そういった作品が得意なコルベット監督といつも2人で悪巧みしている。その傍らにいたのが、映画だけが人生といったジーンという青年で、いつもポンポさんに振り回されていた。 ほかに取り柄がなく、映画だけが大好きで熱心に観続けて来たけれど、だからといって自分で映画を作った経験はなく、作れるだけの自信もない。そんなジーンの才能を見いだしたのがポンポさん。コルベット監督の映画の予告編を作らせて、短いけれどもそれゆえに才能が試される映像で見事に期待に応えたジーンを抜擢し、自分が脚本を書いた1本の映画を撮らせることにする。 それが「マイスター」という映画。主演は祖父の伝手で引退すらささやかれていた大物俳優のマーティン・ブラドッグを読んできた。そしてヒロインにはジーンと同様に新人の女優を抜擢した。それがナタリー・ウッドワードという少女。女優になりたくて田舎から出てきたものの、すぐに役は得られず、交通整理のアルバイトをしながらオーディションを受け続けてい。 ポンポさんが行ったオーディションにも参加していて、ちょっとだけ「ピン!」と関心を持たれながらもその場では地味だから失格となたナタリーを、ポンポさんは自分の映画のヒロインにピッタリだと思い出し、コルベット監督の映画でモンスターに襲われ続けている女優のミスティアに預けて芝居の勉強をさせる。事務所が売り込んでくる人気が取り柄のタレントではなく、撮りたい映画にピッタリの才能を見つけ、育てていくスタンスがどうにも羨ましい。そして美しい。 そうやって取られた映画の結果は......。それは読んでのお楽しみとして、未だ世に出ていない才能が、優れたプロデューサーの炯眼によって集められては大きな仕事を成し遂げるストーリーの、ポジティブさにあふれた展開が読んでいて心地良い。巧くいき過ぎといった声も浴びそうだけれど、決して誰もが偶然に起用された訳ではない。自分に怠惰な人間などおらず、ジーンなら映画に関する知識なら誰にも負けないつもりでメモを取り続け、ナタリーは女優になる夢を諦めないでニャリウッドなる映画の都に居続けた。だから夢を叶えられた。 そんな過程において、すでに幸せを感じている人にクリエーティブな仕事なんでてきない、自分に満足していないからこそ何か作りたいといった思いが出てくるのだといった指摘があり、あるいは毎日毎日映画を見続けて来たのだから、映画を作る準備なんてとっくにできているはずだといった宣言があって、もの作りに悩んでいたり迷っている人たちにとってある種の警句となっている。 それらを読んで誰もが思うだろう。自分に才能がないと嘆くより、ある才能を信じて進もうと。面白い何かを作るためには、誰か1人にでも喜んでもらいたいと思おうと。そんなメッセージを活かして明日から自分の道を歩めるか。歩かねばならないのならまずは向かえ、物書きならば原稿用紙に、映像作家ならカメラを手にして街に、人に。 作者自身がそうやって前向きに取り組んだ結果が、ネット上で人気作品となっただけでなく、杉谷庄吾【人間ポンプ】による単行本の『映画大好きポンポさん』として刊行され、ふたたび注目を集めたことなのかもしれない。動き出さなければ何も変わらないのだと改めて知ろう。 すごいのはさらに夢の続きがあることで、まずはアニメーション化の企画が進んでいるという。誰が監督を務めるか。ポンポさんの声を誰が演じるか。楽しみだしこれがヒットしたらな次は実写映画化といった夢も浮かぶ。配役はポンポさんが広瀬すずでナタリーが土屋太鳳でジーンが山崎賢人でミスティアが吉高由里子でペーターゼンさんが仲代達矢でマーティン・ブラドッグが渡辺謙でコルベット監督が樋口真嗣監督。夢のようだが願えばかなうかもししれない。いっそハリウッド版が作られてロバート・デ・ニーロがマーティン・ブラドッグを演じると? それも遠い夢だけれどかなわない夢がないのなら、あるいは、いつか。」
選考員コメント・2次選考
「表紙の絵の感じからは想像できないような映画愛にあふれる一冊でした。」
「二次投票まで気づかなかった作品のひとつです。漫画の世界は2018年どこまでも広がっていく。映画の世界もどこまでも広がっていく。そんな中で映画を愛し、映画に捧げる人物たちを漫画の世界で目の当たりにすることができてとても幸福でした。好きな映画三本、この漫画を読んだ後に考えてみたのですが、まだ絞りきれてません。困りました。」
「「えっ、こういう漫画だと思わなかった!」というのが、この漫画を初めて読んだ時の最初の感想です。自店の棚で平積みこそしていたのですが恥ずかしながら今回のノミネートまで未読で、数ヶ月表紙を眺めていた時のイメージからは「わかる人にはわかるマニア系の作品」を勝手に想像しておりました。でも全然違いました!ストーリーもキャラクターもマニア系どころか王道かつユニーク。ベタな感想ですが、この作品こそがまるで一本の映画のようで最後まで夢中になって読んでしまいました。わたしは映画の知識があまり無いので、映画のマニアックな知識があればもっと深く共感できたのかも?とも思いますが、この漫画自体が魅力的なのでそういう人のことも決しておいてきぼりにはしないでくれます。優しくて、人の心の熱いところに訴えかけるこの漫画がもっとたくさんの人に読まれて欲しいと思います。」
「とてもテンポのいい作品で大好きです。比べるのはあまり意味のないことかもしれないですけれども、最近、お話を丁寧に描こうとするばかりに間延びする作品が増えているような気がする中、ストンと腹落ちする気持ちのいい展開でした。最後のセリフを作品として地で行ってるのも素敵ですね。何より、ものづくりの本質を喝破してみせているのが、読んでて楽しい笑いを抑えきれません。社会不適合者の才能、博覧強記、一瞬のイメージをモノにするための積み上げ。自分がなかなか手の届かない境地ではありますが、それが何より素敵なことだということが、シンプルで力強い描線からも伝わってきます。ジーン君の編集作業タイム、惚れますね(笑)」
「準備はいいか? だったら大丈夫。どんなに大変な日々が続いても、いつか花開く時が来る。そして世界に認められる。そんな絶対の可能性を、人間プラモこと杉谷庄吾の『映画大好きポンポさん』というマンガが2つの意味から教えてくれる。 1つは映画監督であり、それを含むクリエイティブの仕事であり、それらをも含んだ自分の将来への可能性。ポンポさんという、祖父に偉大な映画プロデューサーを持つ女性映画プロデューサーの助手として働くジーンは無類の映画好きで、子供の頃から観た映画に関するメモをとり続けては、それを自分の血肉として身につけている。 キラキラとした青春を振りまきながら将来への夢を語る若者たちと違って、ほかに居場所もないまま今は映画界の最底辺であえぎながらも、他に道はないとひたすらに映画に浸る日々を送っている。出会う人からもらう言葉のすべてが勉強。それをメモして噛みしめ覚えていった先で、ジーンはいきなりの最先端へと放り込まれることになる。 ポンポさんが作ろうとしている映画の監督。主演は名優マーティン・ブラドッグというとてつもない事態に怯え、引っ込み辞退するかと思いきや、ジーンは不安こそ抱きながらもそれが自分には出来ないとは考えてないようだった。なぜ? ジーンには準備が出来ていた。とてつもない時間をかけて映画に関する知識を溜めて感想を抱き、良さを感じ至らなさも知って自分ならどうすか、どうすれば良いかを分かっていた。だから撮れた。それ以前に撮らせてもらえた。 ポンポさんと組んでよくB級映画を撮っているコルベット監督の作品の予告編を任され、ポンポさんもコルベット監督も驚くフィルムを作って見せた。そしてポンポさんが書いた脚本から、どの場面が1番のクライマックスかを即座に見抜いて言い当てた。脚本を読んで映画を観る目ならとっくにできあがっていた。それは映画を撮り上げる腕をも作っていた。 やりたいことがあるのなら、それに向けての準備は決して怠るな。そんな言葉をジーンから贈られ、ポンポさんの態度から感じさせられる作品、それが『映画大好きポンポさん』だ。映画に限らず何か自分で生み出したいのなら、そのために日々の準備を積みかさねておく。そうすることで道は開ける。もしくはそうすることでしか道は開かれないものなのだと知ろう。 それは1つの可能性にも関係してくる。pixivにある日突然に登場して、とてつもなく面白いストーリーから多大なアクセスを得て評判となり、紙での出版へと至ったサクセスストーリーであり、シンデレラストーリーの主とも言える『映画大好きポンポさん』という作品と、それを描いた杉谷庄吾【人間プラモ】だが、決して一朝一夕で世に出た訳ではない。 描きたいものがあったとしても、それを描くためにはとてつもない時間をかけての研鑽がいる。商業誌でのデビューという、働きながら稼ぎながら研鑽を詰める場所が与えられているならまだしも、そうした連載を持たない漫画描きはどうやって研鑽を積んでいったのか。たとえ将来は見えなくても、準備だけは怠らない気持ちから日々、ページを描き継いでいったと考えるのが普通だろう。 そして、雑誌への連載ではないネットの画像投稿サイトへ無償で公開することもまた、描きたいものを描いて読んでもらいたい人たちに読んでもらうための準備だった。そうした準備があったからこそ、『映画大好きポンポさん』は世に広まり、紙の本にもなって出版され、そしてマンガ大賞2018に最終候補としてノミネートされた。 準備あってこそのひとつのこうした到達は、さらに先へと進む可能性を持っている。作者の怠らなかった準備を感じ取り、ジーンという青年が積みかさねた準備への経緯を抱きつつ、そうした準備のひとつとしてここに票を投じて、『映画大好きポンポさん』がどこまでも突き進み、果てしなく広がるための後押しをしよう。」
「作り手の努力や葛藤の塊という点では、本も映画も音楽も同じ。それを商品として扱う側の人間は、意識していないとそこに込められた作り手の感情も共感する人の存在も忘れがちなので、偶にこういった作品に触れるとハッとさせられます。仕事雑になっていたかも・・・・。やりたかった事やれてないかも・・・・。出て来るのはサラリーマンでもOLでもないけれど、モチベーションを上げてくれる良いお仕事漫画だと思います。」
「構造的に配置されたキャラクターたちが影響し合う様に科学を感じた。「好き」を突き詰めて欲しい作家。」
「ホッコリ」
「超有名映画監督の孫娘で天才と名高いポンポさんが、暗い映画オタクであるアシスタントのジーン君を、ポンポさん脚本の映画監督に抜擢するところから物語が動き出します。ポンポさんがジーン君の才能を見出す過程等、ストーリーの筋がしっかり通っていて引き込まれるし、スピード感もあり、まったくテンションが落ちることなく最高のラストを迎えます。実際に映画の撮影が始まるシーンでは鳥肌まで立つほどでした。1冊完結のマンガなのですが、1本の素晴らしい映画を見終えたような高揚感を得ることができるかと思います。」
「本作は「オタク賛歌」である。と、オタク気質を持った全ての人に伝えたいです。常々「オタク的要素を持つ仕事はその道のオタクにやらせるべし」と思っているのですが、本作はまさにそれを地で行くマンガでした。映画が大好きで、映画以外で生きていく方法を知らないジーンくん。キョドるしパッと見冴えない男ですが、映画オタクとして生きてきた彼の中には世にも美しい「画」があります。そのことは、インプットをひたすら続けてきたオタク的人種に対してのこの上ない讃美歌であると思うのです。何かを世に出したいと、グツグツ頭の中にナニかのあるオタク的人種にとってのアンセムになりうるマンガです。」
「才能のあるなしというのは残酷だ。いつかどこかで読んだそんな言葉が、デザイナーだったりコピーライターだったりをうにゃらうにゃらとやってきた僕の中で、長年ぐるぐると現れたり消えたりを繰り返しすこともあったのだけれども。そんな過去の結果をがんばって測ることよりも「今、好きなもの」に全自分を捧げている人をいつだってかっこいいと憧れるし、なんならもうそれだけでいいじゃないかと、節目になる40歳に改めて思い出させてくれた「ポンポさん」は、2017年最も友人にオススメしたい1冊でした。そんなモリサワの好きな映画3本「ブレードランナー」「東京ゴッドファーザーズ」「ピンポン」 ポンポさんの幕間に倣って。」
「全1巻で綺麗にまとまっている作品。映画を全く見ない私ですが、ちょっとだけ映画を映画館で見たくなりました。「映像研」や「コンタクティ」など今回のノミネートは映画を絡めた作品が3つもあってびっくり。それぞれ良かったのですが、一番響いたのはこの作品でした。」
「もし主人公がポンポさんに出会わなくとも、彼は変わらず一生映画を愛して生きていっただろう。そういうものだと思う。私の好きな3作は「セックスと嘘とビデオテープ」「機動戦士ガンダムⅢめぐりあい宇宙編」「破稿 銀河鉄道の夜(映画ではなく演劇ですが)」。」
「話のまとめ方が見事。キャラクターごとの個性も確立しており、読んでいる間に一切の飽きがこない素晴らしい一巻完結作品」