選考員コメント・1次選考
「『聲の形』の大今良時先生の最新作、ファンタジー作品? と気軽に読み始め、ほどなく愕然。たしかにファンタジーの要素はあるんだけれど、「ファンタジー」の枠に押し込めるなんてとてもできない。予想はどんどん裏切られるし、安易なハッピーエンドに連れて行ってくれない。でも、虐げられている存在への視線はどこまでも優しい。どこにたどりつくのかわからない壮大な旅に連れて行ってくれる作品です。」
「よくよく練られたものすごい世界観だと思います。人が人であるためには、人を人たらしめるには、ということを丁寧に追っていく作品。観念的で難しいテーマかと思いますが、ストーリーも絵も設定も細部までぶれずにしっかり描かれているせいか、読み心地は決して重たくありません。人との出会いのなかで、傷つきながら失いながら、その身を持って経験し、獲得していく様は、成長というより進化を見ているかのようです。「人間」を経て、主人公は何になっていくのか、どこに辿り着くのか。目が離せません。この内容で少年週刊誌で連載されていることに当初驚いたのですが、このむき出しの進化の物語こそ、やはりジュブナイル世代に相応しいのかなとも思います。といいつつ、幅広い世代に読んでいただきたいです。」
「1巻を読んだとき、なんだこれは!?と衝撃をうけました。1巻が出たときに人に薦めていたのですが、あらすじ説明してと言われても上手く説明できなかったです(笑)読み進めるうちに、こういう物語なのかというのが見えてきて、今後を考えるととても辛い。それでも、主人公を見届けたいとも思ってしまう。」
「圧倒的な世界観。次々と気になってしまいページをめくる手が止まらない。前作の聲の形とは全く違う漫画にチャレンジし、読者を引き込む力。本当に凄いの一言につきます。」
「根底に伝えたいことは普遍的な気がするんだけど、ギミックが新しい!どこに行き着くのか、この先が楽しみです。」
「巻を重ねるごとに面白くなってる。選ばれなくても、もう買ってるだろうし、知ってはいるだろうけど、まだ知らないという人いればぜひ買ってほしいし、読んでもらいたい。もちろん前作「聲の形」も。」
「不思議で切なくて深くて熱くてかっこいい漫画。」
「時代と場所を超え、「フシ」という媒体を通して受け継がれる人の営みの行き着く先はどこか。新世代版の「火の鳥」を思わせる、スケールの大きさに圧倒されます。ミニマムなテーマの作品が多い近年、真正面から人間を描こうとする姿勢と力量に感服しました。」
「マンガ界に一石を投じたある種の"問題作"、『聲の形』の作者による新作。キャリアや年齢に比して(と申し上げるのはたいへん失礼ながら)、なんとスケールの大きな世界観を描くのか。正体不明の何者かが人になり、動物になり、さまざまな有機物に姿を変えていく。今後、ストーリーは何を目指し、どう展開するのか。この作品は、生命、意識、存在とは何かということを突きつけてくる。万人が好むタイプの作品ではないかもしれないが、それでも一度、この壮大なスケール感にぜひ一度触れていただきたい。」
「限りある命と共に過ごす日々が、不滅の何かを何者かにしていく命の物語。何度も繰り返す別れが、少し切ないです。」
「次第に氷解してゆくストーリー。じっくり楽しめる作品です。」
選考員コメント・2次選考
「「フシ」の変身できる条件なども少しずつ明らかになってきて、最初は話すことも出来なかったのが考えるようになり意思をもって行動し始め、巻を増すごとに面白さが増してきてる。まだ1年ちょっとしか連載してないとは思えない。「聲の形」も「不滅のあなたへ」も主人公の成長を見ていくのが楽しい。」
「考えさせられることが多く、胃と胸がずきゅずきゅする。読んでてしんどい。疲れる。それでも、先が気になって読み進めてしまう。「知らないというのは、ある意味しあわせ。絶望しなくてすむ。」という作中の言葉が忘れられない。」
「難解なのに面白い。異端なのに普遍。他と見分けることが可能な絵姿をした主人公を軸に物語が展開するのがマンガだとしたら、この作品は普通のマンガのセオリーを超越している。なんせ「主人公」は決まった絵姿を持たない「思念」なのだ。つるっとした球のような思念が思考し、経験を積み、つまりは「成長」していく過程を、週刊少年マガジンというメジャー誌ではありえないほど丹念に描く。それはもはや奇跡だと思う。ポイントは主人公たるこの思念が「不死身」であることだ(思念だから当たり前とも言えるが)。生きとし生きるものは思考や思索、経験や学習の成果を「知」として口述したり、記録に残したり、遺伝子に乗せたりして次世代に託す。そこにドラマが、物語が生まれるわけだけど、この作品の主人公である思念(フシという名で呼ばれる)は死なない。未来とも、中世とも、そもそも地球上とも明示されない世界で、狼だったり、狼を友とした孤独な少年だったり、宗教儀式の生け贄にされる少女だったり、少女を襲う猛獣だったりする、ある期間に関わった相手(他者)のカタチをコピーし、生体的なダメージを受けても再生することで、思念はただ長い時間を渡っていく。しかしそうであっても、やっぱり「成長」はある。ことばを覚え、コミュニケートし、感情をはぐくむ。生きるのにつきもののそんな営為を描くことが本作のテーマに違いないと勝手に思っている。そんな営為がもたらす自己と他者の関わりこそが普遍的なドラマになるのだから、主人公がカタチを持たない思念であっても構わないのだ。むしろ、思念と関わる他者こそが主人公なのかもしれない。フシの親友となる仮面の少年・グーグーと彼の属する世界の、なんていとおしいことだろうか。」
「命というものの意味について怖くなるほど深く考えさせられる。」
「一次選考では「きっとこれは他の方々からも挙がることだろう」と思い他の作品を選んでしまったのですが、やっぱり挙がってきましたね!と納得の作品。生命とは何か、死ぬとは何か、人の想いとは何か...。たくさんの「何か」をフシとともに考えていくことが、ある時は辛くもありまたある時は喜びでもあり、自分でコントロールできないくらいに感情が揺さぶられます。生命と死がめぐりめぐる重いテーマの物語でありながらも、掲載誌は週刊少年マガジンなので子供から大人までどの年代の方が読んでも心に響く絶妙な温度で描かれているのもすごいと思います。大事な人たちとの永遠の別れを何度も経験し、多くのものを学んでいくフシ。フシが良くも悪くもどんどん人間らしくなっていくことで彼がこの世界でどういう存在になっていくのか、読むことで一緒に旅をしながら見届けていきたいです。」
「繊細な絵で紡がれる人間ドラマ。人の心を徐々に獲得していく「フシ」を通して読み手もまた人の心を得ていくかのような表現が秀逸だと思いました。」
「新解釈の『火の鳥』という印象。壮大なテーマながら人物や場面の描写が丁寧なので読み易いです。こういったお話を続きが気になるように構成している点も見事。どこをとってもレベルの高い作品だと思います。」
「作者が前作で描いた、人間が人間であるがゆえに抱えるコミュニケーションという行為の限界と、しかし同時に存在する可能性。本作ではファンタジー世界という新たなフィールドを得たことで、より鮮やかに、そして多様に、コミュニケーションが持つ可能性と希望が描かれています!」
「死ぬことのない不滅の主人公・フシの目を通して、人間社会の歴史を原始に近いところから追体験できるような作品です。読んでいると、作者から直球で「人間とは何か」を問いかけられているような気になります。悲しいことや辛いことの多い話なので読み進めるのにとてもエネルギーを要したのですが、読み終えた後、いつまでも心にひっかかるような強い力を持った物語なのですよね。タイトルにある「不滅のあなた」が本当は誰のことを指すのか、最後まで読んでみないとわからないのかもしれません。」
「スケール感のある物語の一方で、ひとの生き死にに丁寧に触れていて、漫画として読ませるなあと思った。」
「この人の才能はどんな形に結実するのだろうか。"問題作"としても話題を呼んだ『聲の形』の作者による新作。まだどこかあどけなさの残る作者が描く、とてつもなくスケールの大きな物語。正体不明の何者かが人になり、動物になり、さまざまな有機物に姿を変えていく。ストーリーが何を目指し、どう展開するのか、まだ見えない部分もあるが、その不透明感にすらワクワクする。この作品は、生命、意識、存在とは何かという抽象をさまざまな形で突きつけてくる。壮大なスケール感にぜひ一度触れてほしい。」
「永遠に生きる主人公の傍で、先に失われていく命。でも、共に過ごした日々も、切ない別れも、ずっと覚えていられたら・・・。」
「主人公の出会い、別れを読んでいくたびに、この漫画のタイトルがじんわり心に沁みます。起承転結の転が毎回素晴らしく、毎回読むたびに足元のおぼつかない様な不安な気持ちに落とされ、そしてその後に訪れる悲しい別れの中に、救いのような温かみを味わえて、読み終えた後にいつも大今先生の力量に圧倒されます。」
「感情や自我を持たなかった「フシ」という存在が様々な出逢いや別れという「刺激」をきっかけに成長(というか進化?)していくという物語。生命について俯瞰で見ているかと思えば感情や自我を持つにつれて、生命について深く考えていく話になってきました。様々な人や動物との別れは悲しいものですが、それによる「フシ」の成長と「ノッカー」との戦いもどうなるのか気になります。」
「ストーリーの中心キャラクターたちが変わるからか、一気にテンポが良く読み進みたくなる。これからの展開が楽しみな作品。」
「不思議な世界観で、凄く引き込まれました。続きが気になります。」
「日本のマンガ・アニメ文化の蓄積の上にありながら、ゲド戦記などの哲学的な海外ファンタジーの影響も強く感じる。生きること、考えることとは何か、読者にも常に問いかけてくるマンガ。」
「みんな自分の人生を一生懸命もがいていて、その姿にグッときました。あと幼女が可愛い...。」
「「流して」描いているなと思わせるようなところが一瞬も現れない(流して描くようなマンガもありだし、大好きなのだが)。壮大なテーマをどこまでも真摯に描き切ろうとする作者の姿勢に敬意を表したくなってくる。このまま最後まで走ってほしい。」
「主人公フシが関わった人の死によって、その悲しみを乗り越え成長していく過程が共感し、没入できる。」
「主人公は何者なのか。主人公を追うのは何者なのか。たくさんの謎を投げかけながら物語が進んでいく。読み始めたときの「きっとこういう物語だろう」「こんな世界が描かれるのだろう」という予想は早々に裏切られる。まったく想像もしていなかった方向に大きく舵を切られる物語に、必死でついていく楽しみを味合わせてくれる。どちらかというと無機質な気配を漂わせていた主人公は無数の喪失と獲得を繰り返し、どんどん、人間らしくなっていく。これからどこにいくのか。その旅にどこまでもついていきたい。そんな気持ちにさせてくれる作品です。」
「前作とまったく異なるテーマに挑むと知った時に若干の不安を覚えたけれど、すごいクリエイターというのは表現したいものが内側からどんどん溢れてくるのかもしれない。「無」から始まったフシが多くの人や生き物に出会い、経験を積んでゆく。出会いと別れを繰り返し、それがフシの身体の一部になっている。この作品ではズバリ経験がフシの肉体を構成しているわけだけれども、私たち自身を創り上げているのもまたこれまでに出会ってきた人やモノ、経験なんだなぁという気づきを与えてくれた。」
「これは、「火の鳥」だ。「聲の形」で緻密に現代の我々の半径5メートルを一ミリも違和感なく描いていた、最強の描写力を持つ大今良時さんが、ここで描いているのは時代も洋の東西も過去も未来もわからないファンタジー。しかも、その世界を、フィクションではなくドキュメンタリーかのように眼前に持ってきてくれてる、のだ。冲方丁さんと去年話をした時に、「『マルドゥック・スクランブル』で一緒に仕事して『食われる!』と初めて思った」とおっしゃってましたが、現段階の作品ももちろん面白いのですが、どう考えてもテーマが「命」「生きること」なので、いまを超越した作品、そしてとんでもない作家さんになっていきそう。それにしてもグーグーは熱い。」
「やや観念的な作品ですので読む人を選ぶのかもしれませんが、だからこそたくさんの人に読んでいただいて色々感じてもらいたいなと思う一作です。ヒトがヒトとなるには、ということを主人公に寄り添って共に体験し、失い、獲得していける気がします。感受性の強い世代にこそ読んで欲しいと一次選考の時にはコメントしましたが、ちょうど育児中の私にとって、命とは何か、人を育むということはどういうことかを今一度反芻した作品でした。読む人それぞれの根幹にある、人である、というアイデンティティに何かしら刺さるものがあるんじゃないかなと思います。エンターテイメントというにはあまりにも痛々しい物語ですが、より多くの人に手にとっていただきたいです。」
「冒険モノとしてのドライブ感と、人間ドラマの繊細さが、絶妙なバランスで融合しており、読んでいてすごく楽しいです。主人公はすごく特別な存在のハズなのに、どこかで、ふつうの人間の一生とも通じるところがあり(誰かから何かを学ぶことで大人になるとか、大事な誰かのことをいつの間にか忘れてしまうとか)、非現実的な話なのに共感している瞬間もあるのが、個人的にはすごく好きです。」