「しょせんは下等生物と変わらない、生まれて死ぬまでの間、遺伝子を次代に伝えるだけの存在でしかない人間が、それでも人間として正気を保っていられるのは、とり澄まして社会生活を営んでいられるのはなぜか。その「紙一重」性を、沖縄の離島の濃密濃厚な亜熱帯環境を舞台に描く怪作。ひとことで全体像を語るのはとうてい困難だ。たとえば最新5巻のある見開きから単語を拾うと「スティング構造体」「海兵隊員」「生殖行動」「DNA」「電気パルス」「集積回路」「邪心」「フロイト的な強迫観念」「スーパーコンピューター」「中性子星」「核」「虫の巣」「超新星爆発」......。強いことばがわずか2ページにぎゅっと圧縮されている。ミクロから宇宙まで一気に拡散し瞬時に収斂するマンガならではの大風呂敷に圧倒される。そしてマンガの主人公としてはおよそ例がないほどの主人公のキモさ。連載は1月半ばに完結したということだけど、テン年代の奇書のひとつとして後世に伝えられることは疑いなし。人間誰しも持ちつつ隠しておきたい下劣な欲望と、顔を背けたくなるような保身、過剰で「ぐっちょんぐっちょん」で、眉をひそめたくなるような描写がもたらす身の毛もよだつ恐怖。大手出版社(小学館)のメジャー誌(ビッグコミックスペリオール)で連載されたのがおよそ信じられない。読者を選ぶかもしれないけれど、強力な磁場を持っているマンガです。」