選考作品へのおすすめコメント
マンガ大賞2019一次選考作品

『うたかたダイアログ』稲井カオル

  • うたかたダイアログ 2 (花とゆめCOMICS)

  • 「他愛のない会話ネタを面白く読ませるセンスの塊。本作のヒットを機に「銀河系不動産ほしの」「平凡探偵つきなみ」なども書籍化して欲しい。」

    「はぐれヒロインにしてキテレツ界のホープ、と説明されるすっとぼけ個性派女子と、長身金髪そのくせ実のところはヘタレという純情男子。ドラッグストアでバイトしている高校生男女の会話劇だ。コンビニではないところが渋いというかユニークで、いわゆる本部の締め付けが少ないゆえのユルさを感じさせて全体のムードづくりに一役買っている。おもしろさを説明しにくい(なのでぜひ単行本で読んでほしい)のだけれど、1ページに3~4回、つまり2コマに1回くらい以上、クスクス笑えるやり取りが投入されるにも関わらず、ちゃんと会話が成立し、伏線も張りまくられ、あまつさえすべて回収され、ストーリーはしっかり進展し、ちゃんと1話16ページでオチを迎える。これはほんとうにすごい。あるコマと次のコマはボケとツッコミの関係を役割分担し、ツッコミのコマは次のコマにとってのボケとなり、そのまた次のコマにツッコまれ(以下略)というループが、のんびりしつつも独特のリズムを作り出している(作者は大阪出身とのこと)。「無駄口叩いて青春を浪費して」みたいなことが2巻のカバーに書いてあるけれど、言葉通りに受け取るのはヤボで、それができるのが青春の特権なのだ。きょうもきょうとて、あしたも続いていくのだなあ、という2人のやり取りが、なんとも平和な感覚をもたらす。しかしながら最終3巻(発売は対象期間外)は、そんな平和は期限つきであり、だれもがそれを高校時代に特有だと知っている、という前提に立って後味の良い成長譚としてまとめている。高校生にしか感じられない何か、その「何か」は時代やその子自身によっても違うけれど、その「何か」を踏まえて大切な人との関係性を前に進めるのだ、という至極まっとうな考えで描かれる大団円は好感度高し。惹かれるって「若い心」と書くのか。気付かなかった。」

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