「敗戦後の日本。闇市であやしい煮込みの店を経営する下士官上がりの川島(言及はないが二枚目の見た目で描かれる)が、復員してきた元部下で毛むくじゃらの熊のような黒田と再会し、行動を共にするようになる。焼け跡で何もないけれど活気だけはあるマーケット。そこに生きる男女の、それぞれが戦時に負った心の傷や、その日暮らしだがしたたかでたくましい生きかたを丹念に描きつつ、次第に大陸での、客観的に言って悲惨きわまりない戦闘の?末が明かされていく。本作が連載当初から話題だったということは後から知った。コミックビームでの連載が完結するまで読んだことがなかったのだけれど、完結記念と銘打たれて夏に公開された長文の作者インタビュー(マンバ通信。作画についての話など必読)をたまたま読み、そのまま神保町に走って1~2巻を購入。週末に読み、週明けに同じ店で続きを買ってひと晩で7巻まで一気読みして完全に寝不足になり、それでも「読んでよかった」と強く思った。ぶっ通しで読むことができてよかったかもしれない、とこれは負け惜しみ。ともあれ、戦争における国と国の勝ち負けそれ自体はゲームみたいで現実味がないが、戦争に突き進む国家が犠牲を強いるのは無名の兵士とその家族で、勝っても負けてもそれは変わらない。生き残って帰還したとしてもそれでめでたし、では当然なくて、まっとうな神経であればあるほど消えない慚愧の念を抱えて生きることになる。一方で「あれはなかったことにして」次の時代を軽薄に踊る人たちもいる――。そんな戦後史を読む者に考えさせるのに、説教臭さや振りかぶった主張はなく、おもしろい物語としてひと息で読ませる技。端役まですべての登場人物に血が通っていて、エピソードの一つ一つに心が揺さぶられる。敗戦から70年が過ぎる今にこのマンガが連載され、きちんと完結したということが一つの事件だったのかもと思ったりする。」