選考作品へのおすすめコメント
マンガ大賞2019一次選考作品

『君を死なせないための物語(ストーリア)』吟鳥子、中澤泉汰

  • きみを死なせないための物語 4 (ボニータコミックス)

  • 「汚染された地球を離れた宇宙コロニー社会、綺麗に管理されたディストピア感を描きながら、特別な遺伝子を持つ主人公達が苦悩し葛藤する姿をリアルに描き出しており、久々に力の入った本格SF作品ではないかと。」

    「何かの理由あって住めなくなった地球を脱した人類が、コクーンと呼ばれる宇宙に浮かぶ巨大な都市に暮らすようになった未来。そんな人類からネオテニイと呼ばれる新人類たちが生まれて来るようになった。宇宙に適応したためか寿命が極端に長く、中には数百年を生きるものもいる。成長も人類に比べてゆっくりしていて、20歳くらいになっても見かけは子供のまま。それでいて早熟なのか頭も良くて、早いうちからいろいろと発明や発見をしてコクーンの科学や経済の発展にも貢献している。ネオテニイは貴重な種族としてコクーンの中で優遇され、普通の人類たちから強い関心を寄せられている。そんなネオテニイの4人が主要なキャラクターとして登場し、だんだんと成長していく姿を追いかけるように描いているのが、吟鳥子によるマンガで、中澤泉汰が作画協力をしている『君を死なせないための物語(ストーリア)』(秋田書店)。第4巻までシリーズを重ねる中でどんどんと、人類という存在が未来において、宇宙時代にどう生きているのかを想像させるSFとしての色濃さを増し、読み手の関心を引きつける。第一パートナーとして、ある種の幼なじみとして育った男子のアラタとシーザーとルイ、そして女子のターラが長じて、キス程度のちょっとした性的接触も許されるだろう第二パートナーになり、それぞれに科学者であり軍人であり芸術家であり医学者といった立場になって、コクーンのためにその叡智を勝つようし始めている。そこから先、生殖をして子孫を残すための第三パートナーになるかどうか、といった段階でアラタとターラは足踏みし、ルイはシーザーからの第三パートナー契約の申し入れを断ってしまう。4人の中に漂っているのが、ダフネ-症という16歳までしか生きられない病気に罹った少女の思い出であり、そして、同じダフネ-症に罹っているジジという少女の存在。純粋無垢なジジはアラタに懐き、シーザーにも好かれ神経質で口の悪いルイからは仕事をもらったりもする。過去、ルイにはダフネ-症の少女とパートナーになろうとして死なれた過去があって、それがずっと残ってシーザーとの関係を頑ななものにしていた。アラタは宇宙にあって資源の限られたコクーンで、間引きのように命を奪われるリストインの対象にされやすいダフネー症のジジが気になって、ターラと向き合えないえいた。そんな状況にあって、コクーン社会を支配する科学者たちの組織、天上人(テクノクラート)たちが動き始める。ネオテニイの始祖で天上人の長を務めるソウイチロウを曾祖父に持っていて、類い希なる才能の持ち主でもあるアラタを天上人に引き入れようと画策してつきまとう。アラタの知り合いで、宇宙船を駆って輸送を行っているリュカという男が、普段の仕事の中で気付いてしまったある事実は、天上人たちにとって禁断の知識だった。そのことに気付いていながらリュカを止められず、悲劇へと向かわせてしまったことでアラタはジジを治療し、ダフネ-症を完治させるため研究から道を外れ、「君をしなせない」ための決断をする。地球に人類が住めなくなっていて、限りある資源を活用しながら宇宙で暮らしている状況で、どういった階層が形作られているのかを描いたSF的な想像力に溢れたマンガ。人類を絶対的な高みから管理する存在があって、その思惑によって不要な命が間引かれ、断たれていくというディストピアめいた雰囲気もあって、そうした世界で生きている人はいったいどういった心理になるのかを考えさせられる無能には生きている資格はないのか。従順こそが美徳か。能力がある者だけがすべてを知り、それ意外の者には世界の根幹に迫る知識を与える必要はないのか。管理され抑圧され、それを自然なことだと受け止めている社会に生まれたほころびが、これからコクーンを、人類をどう変えていくかに興味が向かう。どうして人類は遠くに行ってはいけないのかも。そもそも人類は今、どこにいるのか。浮かぶ疑問に答えが示される続きが今は待ち遠しい。振り返れば、少女マンガには萩尾望都の『スター・レッド』や『銀の三角』があり、竹宮恵子の『地球へ...』や『アンドロメダ・ストーリーズ』があり、山田ミネコの『最終戦争』シリーズがあり水樹和佳子の『樹魔・伝説』があってと、宇宙時代の人類の未来などが壮大なスケールで描かれたSF作品が幾つもあった。そうした作品に触れた年配の者たちが懐かしさを感じながら、今日的な問題についてSF的想像力の中で考える機会をもらえる作品。そして、そうした作品を知らない者たちも、同様に宇宙時代、地球から人類が脱出せざるを得なくなった時代に何が起こるのかを考えたくなる作品として読まれて欲しい。」

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