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マンガ大賞2020一次選考作品

『きみを死なせないための物語』吟鳥子、中澤泉汰

  • 「そう、第4巻までを読んで感想を書いた銀鳥子による「きみを死なせないための物語(ストーリア)」(秋田書店)。2019年には第5巻と第6巻が刊行され、第一パートナーとして、ある種の幼なじみとして育った男子のアラタとシーザーとルイ、そして女子のターラに加え、ダフネー症という16歳までしか生きられない病気に罹ったジジという少女で形作られていた物語は大きく変化した。アラタはコクーンと呼ばれる、宇宙に浮かんで人々が暮らす世界の秘密、そして人類が遠くへは行っていけない理由を探ろうと、コクーンを管理する「天上人」の仲間入りを果たそうとする。ターラはアラタからの第三パートナーになって欲しいという申し入れを断り、残されたジジがダフネー症によって死なないための方策をアラタに代わって探し求める。ルイは芸術家として大成し、シーザーは軍人から大統領を務める父親の後を継いで政治家への道を歩み始めるかの分かれ道に立つ。それぞれが大人となって自分の役割を果たそうとし、あるいは悩みながらも日々を送る中、それでもやはりコクーンという世界への懐疑を胸に秘めて生きている。そうした中、アラタは派遣されて社会から外れた者たちが暮らす場所へと潜入し、かつてルイが愛し、そして新だダフネー症の女性、祇園を知る者たちに会う。宇宙について話すことを禁じられた世界。地球について誰も知らされていない世界。優秀な者が選別されて生き続け、病気を持つ者、老いた者は選別されて間引かれ速くに世を去らされる世界。繁栄を謳歌しているようで行き詰まり、息苦しさを増す世界の中で"目覚めた"者たちが、反抗をつづける者たちがたどり着く場所はどこなのか。京都コクーンでアラタが見つけた、VASIMIRなる物体が意味するものは。隔離されている場所を抜け出し、ターラにかくまわれルイと第三パートナー契約を結んだジジの運命は。「これは君たちを死なせないための物語」「この真実に人類はきっと耐えられない」。全てを知っているらしい者から投げかけられたような言葉が意味する、人類がそこにとどまっている理由が気になる。それでも、「君を死なせない」ために動くアラタやターラやルイやシーザーたちの思いがぶつかり合った先に、解放された世界が、宇宙が広がっていることを願ってこれから出る続きを見守っていく。」

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