選考作品へのおすすめコメント
マンガ大賞2020一次選考作品

『目黒さんは初めてじゃない』9℃

  • 「スクールカーストがマンガのストーリーを成立させる基礎(土台)になって久しい。いまや前景にそれを織り込まなければ読み手はマンガを読むことすらできないくらいだ。本作はラブコメの体裁をとりながらも、同じ学校に通っていても階層が違えば接点がない、視界にすら入らないというシリアスな現実を踏まえ、主人公が少しずつ前に踏み出し、その壁を乗り越えることと、乗り越えた先には成長があるんだよ、というポジティブな作者の思いが原動力になっている。さえないメガネ男子の古賀くんが、経験豊富な「ビッチ」と言われている目黒さんと付き合うことに。恋愛が力になること、恋愛によって自分自身が成長したと感じられる実感はおそらく誰にもあるけれど、本作はそんな境地に至る過程を丁寧に描くことで、ちぐはぐで不釣り合いだと周囲に目される2人が、それぞれに相手の良さを見つけ、影響され、変わっていく様子を温かい雰囲気の物語として読ませる。コミュ障で最初はまともにしゃべれなかった古賀くんが、目黒さんと付き合うようになってからしっかり自分の言葉で、自分の気持ちを、相手に、クラスに、伝えるようになっていくようすは心に響く。「俺は 二度目でも三度目でも 百度目でも 目黒さんとすることは全部 とくべつなんだ/だからぜんぶ 大事にしていきたい」(2巻)という古賀君のステートメントに対し、目黒さんの「私は 経験したことのないことを 想像することがあまりできません けれど、何かが変わったときに その変化を古賀さんが喜べるのなら 私も それを一緒に喜べたらいいなと思います」(3巻)という冷静な自己認識の裏表にある熱が描かれる。名台詞多数。ふわっとかわいらしい絵柄もあって、それを照れずに読めるところがいいと思う。」

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