選考作品へのおすすめコメント
マンガ大賞2020一次選考作品

『惑星の影さすとき』八木ナガハル

  • 「コアとまではいかないけれど、地殻を湾曲に掘り抜いて重力で走らせる弾丸列車の構想など、20世紀のドリームにあった落とし穴が描かれる。帰還が50年後になるのを承知で遠く離れた星へと戦争に出かける青年たちが戦う相手は、人間の頭を使った戦闘兵器だったりするエピソードもある。そうした商業作品とは別に、同人誌即売会のコミティア向けに用意された短編では、無限工作社なる存在、子ども達が仕切ってテクノロジーを与えては惑星を大きく変えるようなことを繰り広げている集団を追って、かつて星を滅ぼされたドキュメンタリー作家が取材を続けるエピソードも綴られている。衆人だけが繰らす惑星を尋ねてリポーターが知ったことは脇に置き、外にも世界があると知ってなお囚人として惑星に止まる少女の決断に、冒険より安住を求める心理を見る。目が一つしかないからこそ、相手の心理を読むことができる人たちの話。いったん着火したら絶対に消えず惑星すら燃やし尽くしてしまう火の話。驚きの現象やガジェットが繰り出され、そして無限工作車によるとてつおないテクノロジーが提示され、個々のエピソードをつないで宇宙全体に謎をもたらす。そんなSFコミックが詰め込まれた「惑星の影さすとき」が星雲賞を獲得する時は来るか。見守りたい。」

▲ ページの先頭へもどる