選考作品へのおすすめコメント
マンガ大賞2021一次選考作品

『君は放課後インソムニア』オジロマコト

  • 「永遠に続くような高校1年生の夏に、真に分かり合えるかけがえのない相手と出会えたら。出会えただけじゃなくて時間をともに過ごせたら。過ごすだけじゃなくて同じ気持ちを共有できている、と心の底から実感できたら。100%の信頼感を託せる相手がいつも隣にいたなら――。誰でも夢想するだろうそんな『理想の夏』が真空パックされているようなマンガ。メガネ男子・中見と同クラの曲伊咲(まがり・いさき)は偶然に出会い、ともに不眠症で悩んでいることを知る。校内に昼寝の場所を確保するという利害が一致し、手を組む中で次第に親しくなっていく。そのゆっくりとした関係性の深まりを、一コマ一コマ、丁寧に丁寧に、描いていく間合いがとても気持ち良い。2人それぞれの過去や不眠症の理由も次第に明かされていくのだが、本作については先を急いでがっつく読み手はいないだろう。それよりも2人が互いを他とは違う唯一無二の大切な相手だという確信を強めていく小さなエピソードの積み重ねと、それを受けて相手を見やるときの目の輝きがだんだん増していく絵力の巧みさ、胸が震えるようなリリカルな作品世界こそが楽しい。仕事が終わった後にお酒でも飲みながら、能登のなつかしい景色の中でゆっくりと進む時間の流れを追いつつゆったりとページを繰るのとかがよい感じ。掲載は週刊ビッグコックスピリッツ、2019年連載開始。春の文化祭準備から始まって5巻が出ても夏休みというのはオジロマコト先生らしいペースで、長編の予感(ペースがゆったりだからコロナを意識しないで済むというのもあるような)。屋上の使われなくなった天体望遠鏡室、田舎道沿いの古びたゲームセンター、港、神社、満天の星空、雨宿りで駆け込んだバス停の小屋など、舞台装置も最高に胸キュンものかと。重要な脇キャラの猫もいい。」

    「自分だけが抱えていると思っていた不安や悩みを誰かと共有できたとき、ストレスは大きく軽減されるし、何よりその共有できた相手と強い絆が生まれます。理解しあえるって本当に嬉しいし心が温かくなる、そんなことを感じさせる作品だと思います。」

    「睡眠障害をもつ高校生男女の物語です。天文部を舞台に徐々に心を通わせてゆく様子がみずみずしくて、眩しくてたまりません。淡く、ロマンチックなイメージの中に、ちゃんと熱い温度やしめっぽさもあるので、心に残ります。理想的な青春の形がここにある。現実に少し疲れて美しい世界に触れたい人におすすめの漫画です。」

    「『瑞々しい』なんて言葉は、スイカくらいにしか使える気がしない僕の人生ですが(あと梨、それと桃)、このマンガはやっぱり瑞々しいなぁと思います。オジロマコトさんのマンガには、このお話で初めて触れたのですが、描かれているコマの外側にも世界を感じられる素晴らしい背景(こういうのも背景っていうんですか?背景だけでも楽しめる・・・)の上で、肉体の重さを持っている登場人物たちの一挙一動やくるくるまわる表情がたいへん魅力的で、今よりずっと自由で、いい感じに不完全だった、自分の青春時代のことを、少し思い出せるような気がするマンガです(いや・・・そんないい経験なかった・・・かも?)」

    「誰にも打ち明けられない秘密と、欠落感を抱えた二人が共に時間を過ごすこの物語。自分には何か欠けている、何かおかしいと感じている本人とは裏腹に、もう一人はその一方を素晴らしい存在だと感じている。なんて素敵なことなのだろう、と読み進めながら思ってしまう。10代の間、起こること全てが鋭く刺さり、その全部において全力だった感覚。それが作品の中に詰まっていて、とても眩しい。更に更に、とにかくキャラクターが魅力に溢れている。イサキが可愛い。ガンタも可愛い。とてもとても甘酸っぱい、青春ラブコメディ。こんな青春が送りたかったなぁ!」

▲ ページの先頭へもどる