「かつて海水浴での事故で娘を失い、家庭崩壊を経験した刑事・山田が、JKビジネスの摘発で補導した家出少女・海野詩織の境遇を見かねて自宅にかくまう。ノラネコのように荒んでいた詩織とも何とか打ち解け、世代や境遇の違いを超えた共感が生まれる。だがささやかな生活は長くは続かず...というストーリー。モーニングtwoでの連載は昨秋終了し、単行本最終第4巻も発売済みということで、推せるのは今回が最後。このマンガの切実さができるだけ多くの方に伝わればと願います。きょう食べるものがない、今夜を明かす場所がない、そもそも頼る大人が一人もいない、という子供の貧困(詩織が時折見せる暗い目の描写がすごい)に直面した時、自分ならどのように対応するのか。児童相談所などの公共の福祉が意味をなさない案件だと知りつつ、見て見ぬふりをするのが大人なのか。読みながらそんなことを考えずにはおれない現実味がこのマンガにはあります。『オレはどうしたいんだ』という山田の煩悶は、そのまま本作品の読者への問いかけとなる。手を差し伸べたところで先は見えている、どうしようもない、そう考えて目をつぶるのは保身でしかないのではないのか、という。山田は亡き娘への贖罪だけでなく、自身の信念からも『常識』から踏み出し、『世間体』を振り切り、ただの一人の人間としてなすべきことに踏み込む。その選択は社会的には破滅への道でしかない。しかしながら第4巻で約80ページにわたって描かれる先のない逃避行の只中、終わりを悟っている2人が手に入れる束の間の幸せの何といとおしいこと。助手席で詩織が言う『今めっちゃ楽しーし私』『家族で旅行とか行った事ないから』という言葉は、実母による虐待、神待ちに現れるパワハラ男、連続殺人鬼の執拗な付きまといなど、周囲の酷い大人たちにひどく傷つけられてきた詩織が、人間らしい家族(疑似ではあるが)の温かさを知った証だ。ハッピーエンドにはならなかったとしても、山田が罪に問われたとしても、それは無駄でも無意味でもない。世の中は物事を表面的にしか見ないし、興味本位でしかとらえない。本作はそんな世間の冷たさと無責任さ、格差社会がもたらす不幸の連鎖に起因する救いのない状況を容赦なく(本当に容赦なく)描くが、それゆえに一縷の希望を見いだすラストシーンが強い印象を残す。」