「副題に『友達以上、不倫未満』。夫の転勤に付いて上京したものの、すっかり仕事人間に変わってしまった夫にさみしい思いをしている人妻・美以子。雇われ店長をしていた店が新型コロナ禍で閉店に追い込まれ、妻との仲も冷めつつある元シェフ・牛久。緊急避難用の仕切り(『隔て板』というらしい)を挟んで団地の隣戸に暮らす30代前半の2人が、いろいろあって次第に心を通わせていく。〝よろめき団地妻〟とか昭和風に形容されてしまいそうな設定だが、ずっと品良く、ずっと(今のところは)プラトニックで、ずっと切ない。胸が詰まるような美以子の孤独と、人の良さゆえに人生がうまくいかない牛久の(無意識の)焦り。そんな心情が交錯する過程で生まれる、親愛の情とも不倫のあざとさとも言い切れない切実な感情がじっくり描かれ、ざわざわとした気持ちにさせられる。同じ作者でドラマ化もされた『うきわ』(2012~14年連載)の令和版、という触れ込みなのだけれど、違うのは新型コロナ禍が背景になっている点だ。コロナにここまで真正面から向き合ったマンガはさすがにあまりないのでは。『出会いの頃』という章題が付いた2019年(コロナ前)の時間の流れと、『現状』という章題が付いた2020年夏(コロナ1年目)の時間の流れ。2つの時間の流れが行きつ戻りつするように登場し、それぞれ進展していく。つまりはコロナ禍が現在進行形のいまから、コロナがなかった過去が回想されるということになり、寄る辺のない不安さからつながりにすがりたくなる不安定なこころもちが現実味を帯びる。やばい。第2巻では今春刊行予定の最終第3巻に向けて『現状』編のエピソードがぐいぐい進行しているだけに、どんな結末を迎えるのかが気になる(読んでいないけれど掲載誌ではまさに佳境?)。なお第1巻の後半になるともうひとつ、『馴れ初め』という章題が付いた2020年2月(コロナ寸前)の時間の流れも出てくるため、ぼんやり読んでいると戸惑うかもしれないが、その戸惑わせの手腕も本作の魅力。絵柄はぱっと見、素朴な印象なんだけれど、潤んだ瞳の描き方などたいへん艶っぽく、マンガを読む醍醐味が味わえると思います。」