「これは『オレ』が『女子高生』になるまでの話(第1話)――トランスセクシャル的な設定のマンガは多いが、マニア向けだったり、子供っぽいイメージもあったりで広くは勧めにくい。でも、2021年12月に第4巻が出たばかりの本作は、それらとは一線を画す『思い』の強さがある。未読ならこの際4冊まとめて一気に読んでみて!! と強くお勧めします。タイトル通り、小学生の『オレ』が女子高生の『私』になるまでのストーリー(第4巻時点では中学2年生)。架空の病気『突発性性転換症候群』によってある朝突然、身体の性別が女子になってしまった少年・藤宮明(アキラ)が、女子として生きていく姿を描く。読者はまずこの設定を乗り越える必要があるが、荒唐無稽と思わず、ぜひ乗り越えてほしいです!身体の変化によるエロティックな要素やコメディー的な描写はなく、男子(=オレ)のココロを残したまま、いきなり女子(=私)の世界に投げ込まれたアキラが、日々感じ、考え、試行錯誤しながら、社会性、居場所を獲得していく成長譚だ(実際、第3巻までのカバーには『ジュブナイル・ストーリー』と銘打たれている)。男子がふだん自認する『男』とは違うところもある女子の考え方や感じ方、表現の仕方、つながりのつくり方を知るよしもなかったアキラだが、クラスメートや周囲の大人との軋轢を、いきなり女子として体験させられる(発病後の転校により、現在の周囲はアキラの病気を知らない)。そして、意図しない形で親友を傷つけてしまったり、仲直りをしたり、自分も傷つきながら、少しずつ、ほんとうに少しずつ成長していく。この『成長』をひとコマひとコマ、とても丁寧に描いているところが読んでいて何より魅力。性転換前のアキラはいわゆるガキ大将タイプ。男児には『やんちゃ』とかいって許されきた乱暴な振る舞いや言葉遣いが、いかに女子を(ときには男子も)傷つけてきたのか。女子になったアキラは、そのことをつくづく思い知らされ、折りにつけて思い返し、静かに、でも痛切に『誰かを傷つけると一生忘れてもらえないんだ』とさとる。そんな後悔の念を自覚しながら、どうするのがいいのか、と目の前の出来事について真剣に自問自答する。このマンガのなんともやさしい雰囲気は、男子だった頃の無自覚で傍若無人な行状をいま自覚し、悔いている、というアキラの心情を、正面からしっかりとらえた描写によるのだと思う。自分に関わる人たちに『やさしくありたい』と願うアキラの気持ちを余さずすくい上げ、描き切ろうとする意志が物語の推進力になっている。そして、そんな思いは、紆余曲折はあるけれども、アキラ自身へのやさしさとなって返ってもくる。そんなふうにして周りの人たちと互いに信頼関係を築いていくのはよきこと、という作者の確信がにじむところが、読んでいて自然に前向きになれる理由だと感じる。親友の瑠海とアキラ、そのほかのクラスメートの女子たちが互いをさりげなく気遣うようす(視線を交わす、腕をとる、紙を触る、指を絡める・・・)の細かい描写も見どころ。再読するたび、ひとコマごとに新しい発見がある。第3巻では、周囲にとって自分は見まごうことない女子であることにアキラが少し慣れ、文化祭などのイベントを通じてクラスの中で自分の役割を見つけていく。第4巻では、男子生徒を含めて周囲が大人に近づくにつれ、恋愛の要素が入り込んでくるのにとまどう。未熟で、いろいろ間違えたり、自分のことでいっぱいいっぱいだったりする中でも、友だちやクラスメイトや周りの大人たちも含めた自分以外の人たちの幸せを大事に考え、摩擦に悩み、『いっしょにいられてよかった』と喜ぶ。そんなふうにみんなと心を通わせながら『成長』していく主人公。とつとつとしたところもあるけれどかわいい絵柄もあって、読後はとてもあたたかい気持ちになる。」