「小説として発表され漫画にもなって大人気の『わたしの幸せな結婚』が、大正の日本がモデルになった世界観で、虐げられて育った女性が冷徹な青年に嫁いで悲惨な暮らしをおくることになるかと思いきや、純粋な心を見初められて愛され幸せな日々へとたどり着くストーリーで、心をキュンキュンさせている。長蔵ヒロコの『煙と蜜』も同じように大正時代を舞台に男女の恋愛を描いた作品だが、舞台が名古屋の郊外という点も異色なら、女性が女性というより12歳の小学生であることと、男性が青年であるどころか30歳の軍人であることも異色。そんなギャップがなおのこと、2人の関係へと目を向けさせて行く末がどうなるのかと気にさせる。ヒロインは尋常小学校に通っている12歳の花塚姫子で、病気の療養のために名古屋に移った母親に着いてきて、母方の祖父や女中たちと暮らしている。そんな姫子の相手が祖父の決めた土屋文治という30歳の軍人。背が高くいかつい顔していつも目の下にクマを浮かべている。夜道で出会ったら男でも腰を抜かしそうな強面だが、姫子は怖がらずむしろ家に来てくれる日を心待ちにしている。 顔に似合わず文治は優しくて礼儀正しく、少佐という階級にありながら偉ぶらないで姫子や女中たちと接する。そんな文治に姫子は惹かれていて、だからこそ子供に過ぎない自分で良いのかといった悩みをかかえている。名古屋の街にデートに行こうと誘われた時、何を着ても大人っぽくならないと涙ぐむ。文治にふさわしい自分でありたいと必死に努力している姫子がとにかく愛らしい。大正という、恋愛について今ほど自由ではなかった時代だからこそ浮かぶ周囲の障害を乗り越え、本人同士が抱えているわだかまりを打ち破って近づいていく展開が、『煙と蜜』にはある。実は名古屋帝国陸軍第三師団歩兵第六連隊大隊の700人を率いる指揮官でもある文治の職務での切れ者ぶりと、姫子を相手に見せる優しさのギャップに男子たるものこうあらねばと思いたくなる。幸せになって欲しいが、世はまだ戦争が存在している大正年間。第六連隊にはシベリア出兵が控えている。『はいからさんが通る』で花村紅緒と伊集院忍少尉を引き裂いた戦争は姫子と文治の関係にも影をもたらすのか。キュンキュンしつつドキドキしながら追っていきたい。」
「大正時代、十八歳差の許嫁・姫子と文治。日々の暮らしや出来事が丁寧に描かれるなかで少しずつ想いを育んでいくのにキュンとします。姫子ちゃんが健気でかわいくてホントに癒されるんです。」