選考作品へのおすすめコメント
マンガ大賞2022一次選考作品

『数字であそぼ。』絹田村子

  • 「出てくるキャラクターたちが、とにかく変わり者ばかり。暗記が得意でその能力で京大がモデルの吉田大学に入学してしまった主人公の橫辺建己も結構な変わり者だが、入学早々に数学の講義で訳が分からず引きこもりになって、2年間を無駄に過ごした横辺とは違ってパチスロにハマって留年を続けた北方も十分ヘン。そしてさらにヘンなのが夏目まふゆで、横辺の引きこもりを決定づけたくらい天才的な数学センスの持ち主ながら、住んでいる部屋はゴミで埋まり、合コンではイケメン男子に微積分の議論をふっかける。その友人の平坂世見子も見かは美少女ながら、与えられた難問を解こうと巫女姿で御朱印帳に数式を書いてしまうくらい、数学に入れ込んでいる。そんな学生たちを束ねる早乙女先生に至っては、風呂上がりでアイデアが閃くとパンツ1枚のまま家を飛び出し考え続けるというから凄まじい。漫画に出てくる大学教授では、佐々木倫子の『動物のお医者さん』に登場する漆原教授と双璧を成す変人かもしれない。そうなのだ、絹田村子の『数字であそぼ。』は獣医学部を理学部の数学専攻に置き換えた現代版『動物のお医者さん』なのだ。 読めば抱腹絶倒の学生生活を楽しめる。同時に数学の奥深い世界にも触れられる。金が尽きて食べるものにも困り、福引きで商品券を当てようとするエピソードでは、確率的にはいつ引いても同じだが、タイミングによっては条件がついて確率が変わることを教えられる。おやつに出されたホールケーキを7人で分けることになるエピソードでは、コンパスを使うことで面積だけは同じ7つのピースに分けられることを学ぶことができる。いやいや普通はコンパスなんて持ち歩かないだろうと突っ込みたくなるけれど、そこは数学好きの学生たち。笑って許しつつ自分もコンパスをふところにケーキを7分割する時を待とう。危険物だと思われ職務質問されるかもしれないけれど。」

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