「まるで一つの映像作品を見終わったかのような読後感。主人公は突然、殺人の第一容疑者となる。人生のどん底にも感じられるような物語はその後、一人の警察官との真犯人探しへと進む。冒頭に『人生なんて』『たった一つの出来事で変わっちまうもんだ』というセリフがある。今作の序盤、このセリフが非常に印象的であった。実際に何か一つの物事が人生を大きく変えてしまうことは往々にして存在するだろう。しかしその引っかかりやつまづきに過度に固執することなく生きていくことができたとすれば、きっとそれ自体はそこまでネガティブな要因にならない。自分自身でコントロールすることが難しいこともきっと多いだろう。生い立ちや人種・性別といった理不尽な要素で不当な扱いを受けることや、捨て切れない怒りや憎しみ、忘れられない後悔の念。それから生じるエネルギーは相当なものだ。しかし私はこの物語から、それらに支配されてはいけないのだというメッセージを感じた。捨てる神あれば拾う神あり。どこかで見ている人がいる。『たった一つの出来事』は登場人物たちの物語をどのように変えていくのか、是非とも読んで欲しい作品。」