「一言でいえば、細野不二彦先生の自伝マンガ。同じような時代を扱った自伝マンガといえば、アオイホノオもある。2つの作品は少し時代がズレるけど、一緒に読むとこの時代がより立体的になる。奥行きが豊かになり、解像度が増す。アオイホノオのギャグっぽさとはちがい、父親に反発しつつ、何者にもなれない自分の不甲斐なさを痛感しているこちらの主人公は悲壮感が漂う。この時代を知れば知るほど高橋留美子先生の存在の大きさを思い知らされる。高橋留美子先生には、マンガとはいわないまでも、口述筆記でもいいので、ぜひ回顧録を出していただきたい。そうすることでこの時代の大きなピースがはまる気がする。」
「巨匠のデビュー当時を綴ったノンフィクション。慶応大学のSFサークルやスタジオぬえの人物史は、島本和彦『アオイホノオ』(大阪芸大と後のガイナックス)に繋がる『関東バージョン』ともいえる。悩める青年のドキュメンタリーにして、サブカルチャーの史料としても意義深い一冊だ。」
「細野不二彦先生のデビューまでの道のり。前半は青春譚である。慶應義塾高等学校、慶應義塾大学卒といういわゆるピカピカの内部生の中で、趣味にすべてを投じた男子たちの青春と、そして決して順調ではなかった道のりが描かれている。78年の作品だが、いまの大学生のある一部層にも、こういったひとたちは確実に存在する。SF全盛期だった、『ぬえ』で働く当時の若者たちの思いや熱意も世代じゃなくても面白い。なぜ日本でガンダムが生まれ、そしていまでもSF作品が愛されているのか。その源泉のようなものを感じる。」