「足立和平の『飯を喰らひて華と告ぐ1』(白泉社)に笑う。定食屋を営む男は料理の腕は良いし客の抱えていそうな悩みに心底から応えてあげる人情家だけど、その認識の悉くが勘違い。地下アイドルが客としてやって来てもう辞めたいと思っていて、その理由としてファンの男達と握手するのが嫌で臭くてもう握りたくないとぶつぶつ言っていたところから勘違いしたその職業がどうしてそうなるんだ? と言えそうで、なるほどそうかもしれないと思える絶妙なものだから面白い。そして垂れる説諭の筋は違っても心に響く。呆れたか諭されたか少女アイドルは30歳になってもアイドルを続けていく覚悟を決めた模様。結果良ければすべて良いのだ。何より男が作ったブリ照りがとことん美味しそうだ。食べれば勘違いだろうとも心が癒やされそうな見た目だった。そんな料理を作る料理人も、そして描くマンガ家も素晴らしい。そんな作品だ。フラれたキャバクラ嬢が誰にも慰められない寂しさをかかえて定食屋に入った時も、男は彼女をキャバクラ嬢とは微塵も思わない。そのいかにもキャバクラ嬢といった源氏名を勘違いして彼女を大家族で弟妹をかかえた長女だと勘違いした上に、まったく予想もつかなかったアドバイスを贈って送り出す。それで沈んだキャバクラ嬢の心が癒やされるのなら、勘違いも悪いものではないのかもしれない。何よりそこでも出された鶏でとられた白湯ラーメンが実に美味しそうだった。東大卒の経理のようになぜか営業マンと勘違いされ続けながらも通ってしまうのは、勘違いによって繰り出される言葉が妙に響くことに加えて、男が作る料理がきっとしっかりと美味しいからだろう。そんな美味しさに説得力を持たせるのが、写真を加工しているのだと言われても納得してしまうくらいの圧倒的な画力から繰り出される料理の数々を、眺めるだけでも楽しめる上に、無関係の人ですら諭す説教を味わえる漫画をご堪能あれ。」