「13年ぶりの新刊だ。『ABLE』や『ディオサの首』を経て還ってきてくれた伊藤明弘が、前を変わらぬハイテンションのガンアクションを繰り出してきた作品だ。いや、前にも増して銃器の怜悧さが増し硝煙の香りすら漂ってきそうな絵となった作品を、ここで挙げずして伊藤明弘ファンと言えるだろうか。メキシコからアリゾナへと迫っていた前巻に続く『ワイルダネス8』(小学館)で堀田俊生と芹間喬と玉挑恵那3人が、軽々とではなく銃撃と暴走の果てに国境のフェンスを越えて一安心かと思いきや、襲撃は続いて3人に未だ安寧は訪れない。もはや殺すか殺されるかといった窮地に陥った恵那は果たして銃の引き金を引くのか。守ってくれていた形の堀田に訪れたある運命。そして共に逃亡してきた芹間が陥ったある状況。ひとりとなった恵那に選択の余地はなさそうだが、卒業旅行に来ただけだった少女にはあまりに驚天動地の展開で、すぐにすんなりとは溶け込めないし、溶け込んで良い世界ではない。何の躊躇いもなく銃を撃って額をぶちぬき車で跳ねて吹き飛ばすような男が未だ最前線に立ちづけている上に、それまで下着姿のメイドだった女性が屋敷の外に出て来たこともこれから先に起こる展開の凄絶さを想像させる。ガンアクションとカーチェイスと肉弾戦と情報戦の隙間に落ち込んだ少女のこの先を知るためにも、伊藤明弘には描き続けて欲しいのだ。本当に回復したかは分からないけれど、少なくとも描く絵には一切のブランクは感じられない。物語自体も13年をまるで感じさせないで続いている。ならばノミネートするしかない。ノミネートによって読者がいることを伝えなくてはならない。そして完結へと導かなくてはならない。その後に待つ『ジオブリーダズ』の完結を期待して。いつになっても構わない。ずっとずっと待っている。」