選考作品へのおすすめコメント
マンガ大賞2024一次選考作品

『新しいきみへ』三都慎司

  • 「ウルトラジャンプ2023年11月号で完結。連載開始は新型コロナ禍真っ最中の21年10月号。3年間を『完走』したいま、全6巻を改めて通して読み返さないと、この作品の凄さは分からないかもしれない。魔性の女子高生『相生亜希』がさえない高校教師の佐久間悟と絡む妖しい雰囲気と、予想死亡者数50億人というペストに酷似したパンデミックの急展開が並行する1巻は、実は伏線に次ぐ伏線の嵐。6巻を読み終えた後に初めて、1巻最後で亜希が漏らす『私...本当に先生が好きなの』という告白の重みが迫ってくる。ぜひたくさんの人に一気読みしてほしいので多くは説明しないけれど、亜希はパンデミック禍(設定は2014年)で、1人だけ過去の記憶を持ったまま半年間のタイムループを無限に繰り返すという境遇に陥っている。ある存在が仕掛けた災厄の謎を解こうと孤軍奮闘する中で悟に出会うが、悟は前のループの記憶を持ち越さないので『わずかな時間で人類が滅亡間近』という亜希の話を信じようとせず、結果的に『失敗』が繰り返される。しかしループを止めるカギを握る悟との協力が欠かせないと考える亜希は、ループを繰り返すうちに限られた時間で悟の信頼を取り付ける術(すべ)を得て、物語は徐々に核心にーー。未曽有の大災害の渦中で手に汗握る秒単位の追跡行が展開する中で、10代と中年という世代差を超えたシンパシーが描かれる。その中で記憶を積み重ねたままひたすら2014年4月の失敗を繰り返すという孤独なループを繰り返してきた亜希の、絶望に逆らい、次の2014年につなぐ一縷の希望と純情が描かれる。物語の終幕、世界が再び動き始めて10年後に起こる新しい、そして懐かしい出会いに、世界が続いているという安堵と、人生が続いていくという希望がにじむ。青年誌らしいキュートな女子高生の造形だけどそこにちゃんと血肉と感情が感じられるのも良い。」

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