「熊本を舞台に、世代も性別も性的指向も違う3人の男女の共同生活を温かく描いた『三日月とネコ』(5月に実写映画が封切り予定)。その完結から1年。ウオズミアミの新作は、33歳の女性同士の恋愛に正面から向き合い、胸の鼓動が画面から聞こえるような繊細かつ華やかな雰囲気の作品となった。主人公・糸崎宝とその友人(だった)夏目(旧姓・野々原)エマ。境遇も立場もまったく異なる2人は20年ぶりに偶然の再会を果たし、すぐに中学生時代と変わらない友情を育む。しかし、宝が忘れてしまっていた中学生のときの『ささいなできごと』を大事に受け止めて生きてきたエマと関わるうち、宝もそのできごとを思い出し......、という展開。作者は、若くもないけどそう年でもないという世代のリアルを描くのがうまい。とあるきっかけによってその『パンドラの箱』が開いてから、宝の感情が微細に揺れ、その揺れの共鳴によって少しずつ自身の恋愛感情に確信を得るようになるプロセスが、読む者にはとてつもないドキドキをもたらす(私は50代男性ですがそういう年齢性別は関係なく)。20年前の『しなかったキス』をめぐる気持ちのやり取りをこんなにも可憐に、美しく、かつ身体の奥に火を点すようにエロティックに描く作品をほかに知らない。ときに潤み、ときに怜悧に輝くエマの瞳がいい。年齢相応に異性と交際を重ねてきた宝が、学生結婚に近い形で早くに伴侶を得たエマとの関係に、性的な感情を含めて初めて恋愛らしい恋愛(たったひとりの運命の相手)を見いだす。その過程には単なる恋愛ものとか、場合によっては百合系とかのカテゴライズを越え、自分と誰かのコミュニケーションについて真剣に考えるまなざしがある。既刊2巻の先がどうなるか、2人の関係がどう展開するかは分からないけれど、目が離せない上質な作品になることは間違いない。」