選考作品へのおすすめコメント
マンガ大賞2025一次選考作品

『1秒24コマのぼくの人生』りんたろう

  • 「フランスでフランス語でフランスのマンガのバンドデシネとして出たのが日本でも出るとは限らなかったので、フランスのアマゾンにアカウントを作って買って取り寄せたら8000円くらいかかったか。取り寄せたりんたろう監督による『1秒24コマのぼくの人生』はそれはもう素晴らしかったかというとフランス語なので読めなかった。それでも絵の巧さと中に出てくる『鉄腕アトム』だとか『銀河鉄道999』のエピソードは面白そうだと思って何とか読む手立てはないのかと模索していたら、1年を置かずに日本で日本語版として出てしまった。嬉しかった。さっそく買って読んだ『1秒24コマのぼくの人生』(河出書房新社)は、『銀河鉄道999』や『幻魔大戦』を監督として送り出し、日本という世界屈指のアニメ映画大国を草創期から支え盛り上げ世界へと押し出したりんたろう監督の半生を通して日本のアニメがどのように育まれ大きくなって今に至ったのかを教えてくれるものだった。驚いたのは、りんたろう監督がいわゆる高卒でアニメどころか映画や映像の勉強をしたことがまったくなかったことだ。父親に連れられ映画を見に行って映画が好きになっても映画の学校になど行けず映画の会社も採用をしておらず、仕方なく毛織物会社に就職して製造された毛織物にアイロンをかけていた。それでも映画への捨てきれず、新聞で見た求人広告でCMフィルム制作会社に転職し、初めてアニメの絵を描く仕事に携わってそこが潰れて別の会社にも入って今度は仕上という、セルに色を塗る仕事をしていた時に東映動画の臨時採用を目にして願書を出して合格した。さあ映画だ、とはならずそこでも仕上というセルに色を塗るセクションの手伝いのようなことをしていた途中、動画という原画を元に中を割って動きを付けるセクションに移ることができてそこでアニメーターとして改めて道を歩み始めた。でもそれは絵描きであって演出ではない。映画を作りたいというならやはり監督として演出をしなくてはならないのに、そこにたどり着けなかったのはりんたろう監督が高卒だったからだ。本社採用の大卒しか演出はできないという東映動画の当時の慣習によってはじかれ動画の仕事に勤しんでいたりんたろう監督は、やがて仲良くなった杉井ギサブロー監督が、手塚治虫の作った虫プロダクションに移ったのを追いかけるように移籍し、そこでアニメーターだけでなく演出の仕事を始めて『ジャングル大帝』や『ムーミン』といった作品を手がけるようになる。高畑勲監督が東京大学を出て東映動画に入って演出になって『太陽の王子ホルスの大冒険』を監督したのとは違う道筋を歩んだりんたろう監督や杉井ギサブロー監督。アニメといえば高畑勲監督を組んだ宮﨑駿監督の仕事をずっと送り出してきたスタジオジブリの系譜があり、テレビなら『機動戦士ガンダム』の富野由悠季監督が拓いた路線もあって一般にはそれが良く知られている。けれどもオリジナルのアニメ映画として大好評を得て、後にアニメ映画のムーブメントを起こしたのはりんたろう監督の『銀河鉄道999』の方が先。これがなければ『機動戦士ガンダム』が3部作で映画になって一大ブームを引き起こし、今に続くガンダム人気の発端となることもなかっただろう。角川書店がアニメ映画に乗り出し、今のKADOKAWAアニメ隆盛の源流となった『幻魔大戦』もりんたろう監督の作品だ。そうした作品に携わり『メトロポリス』を送り出すまでのりたろう監督の半生を知ることで、スタジオジブリばかりが目立つ日本のアニメの歴史にもっと深くて広い川があることに気付かされるだろう。それにしても『1秒24コマのぼくの人生』は、マンガとしても存分に面白い。流れも良く絵もうまい。これが日本語で読めるのはやはり日本があらゆるマンガを許し認めていることの表れだろう。」

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