選考作品へのおすすめコメント
マンガ大賞2025一次選考作品

『煙たい話』林史也

  • 「昨年に引き続き投票させていただきました。共存、共生、そんな言葉を並べてみる。ただそこに一緒にいるということが、なぜこんなにも難しいのだろう。なぜ言葉にしなければわかってもらえないのだろう。他者のことも、自分のことすらも理解できなくても、理解されなくてもいいから、互いに損なうことなく生きていくにはどうしたらいいのだろう。やわらかく繊細な絵、その中にちりばめられた隠喩、ページを捲る手は軽快ですが、読み終わってからふわふわの小さな棘が全身に刺さって動けないことに気が付く。5巻のラストは苦しく、これまで単行本派だったのですが、縋るようにウェブ更新をクリックしてしまいました。劇的に何かが変わるわけでも、解決するわけでもない。正直人生そんなものだけど、漂い、潜り、時々浮上して、少しだけ視界が開けたりする。先日、運よく林先生のトークショーに参加することができて、この作品に対する想いがより強くなりました。誰かが悪い人に見えないように気を付けている、というニュアンスのことを仰っていたのが印象に残っています。ある立場の人を主人公としたとき、その横や逆の立場にいる人を下げたり悪とすることで主人公の主張を通すのが、わかりやすく共感を得やすいですが、思い返すと確かにこのお話にはそれがない。読んでいて、苦しくなることはあっても居心地が悪くならない理由は、これだったのかもしれないと思いました。まだまだ続きますという先生の言葉にほっとしつつ、このお話と向き合い続けるからには、私自身もまだまだふわふわと漂い続けるのだなぁと思いました。自分なりに感想を書きましたが、本当はどんな言葉を並べても少しも伝わる気がしなくて、もわっとした、ざらっとした、このお話の空気がそのまま伝わればいいのにと思っています。この漫画を目の前に積んで、とりあえず読んで、と言いたいです。一人でも多くの方に届きますように。」

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